弁護士が教える財産分与

1 財産分与とは

「財産分与」というのは、夫婦の協力によって築き上げた財産を原則として折半する制度です。

 

この財産分与は、離婚を考えるにあたって、子供の問題と同じくらい重要な問題となることが多いです。その理由は主に以下の2つの点にあります。

⑴ 財産分与はほぼすべての人にとって問題になる

 親権や養育費等は子どもがいる人だけが問題になります。

慰謝料は主に不貞やDVがあった場合にしか問題になりません。

これに対し、財産分与というのは、子どもがいるかいないか、どちらが悪かったか、ということに関係なく、婚姻期間中に少しでも財産を貯蓄できていれば、理論上は常に問題になってきます

⑵ 金額が慰謝料より高額になることが多い

当事務所のご相談者から、

「配偶者からこんなにひどい不倫をされた、だからうんと慰謝料を取ってください」

といった要望をおききすることがよくあります。

しかし、法的な意味では、慰謝料の金額が何千万という高額になることはまずありません。

多くは100~200万円程度、最高でも300万円までに収まってくることが多いです。つまり、相手がどんなに悪くても、「慰謝料」の金額はせいぜい300万円どまりといえます。

これに対し、仮に夫婦が共有財産として3000万円のマンションを所有していれば、1500万円の財産分与を受ける権利があるということになります(住宅ローンがない場合)。

芸能人の離婚などで「慰謝料〇億円」といった報道を見かけたこともあるかもしれませんが、実際には、慰謝料だけでなく財産分与や早期解決のための解決金を含む総額が数億円に及んでいたということが多いものと思われます。

2 財産分与を検討する際の4つのステップ

⑴ 夫婦共有財産のリストアップ

まずは折半すべき財産の範囲を特定することが必要になってきます。

どのような財産が「夫婦共有財産」として扱われるかについては、以下の3で詳しく解説いたします。

 

⑵ 共有財産の総額を計算

夫婦それぞれの共有財産を足し合わせます。

ここで住宅ローンなどの負債は差し引きます。

 

⑶ 自分がもらえる額を計算

足し合わせた共有財産を原則として半分にしたうえで、すでに自分の持っている分を差し引きます。

 

⑷ 具体的な財産の分け方を決める

決まった金額を、具体的にお金でもらうのか、不動産でもらうのか、といったことを決めることになります。

 

 <具体例>

 ⑴ 夫名義の夫婦共有財産が不動産(自宅)・車・預金合わせて1000万円、妻名義の夫婦共有財産が預金で200万円ある場合、

 ⑵ 夫婦共有財産の合計は、1000万+200万=1200万円となります。

 ⑶ これを2で割ると、1人あたりの取り分は600万円となります。

   もっとも、妻の側には既に200万円の財産が手元にあるため、

   600万円-200万円=400万円が、夫が妻に対して支払うべき額になります。

 ⑷ そして、この400万円の範囲内で、例えば、

   「200万円の車と、200万円の預金を夫が妻に渡す」と取り決めることが考えられます。

3 財産分与の対象となる「共有財産」とは

では、上記ステップ⑴でリストアップすべき「夫婦共有財産」には、どこまでのものが含まれるのでしょうか。以下の3つの点が重要なポイントとなります。

夫婦どちらの名義の財産も対象になる。

初めにも説明したとおり、財産分与は、「夫婦が同居中に協力して作り上げた財産を原則として折半する」という制度ですので、同居中に得た財産であれば、名義がどちらのものになっていたとしても、合算したうえで折半しなければなりません

また、子供名義の財産もあると思いますが、子供の将来のために夫婦で貯めた預貯金の場合、法的には財産分与の対象となることが多いので注意が必要です。

 

②基準となるのは別居時点

人がどれだけの財産を持っているかは、いつの時点を切り取るかによって変わります。

財産分与の場面では、夫婦の協力関係が失われた時点、すなわち別居時点においてどのような財産が形成されていたかを中心に考えることになります。

 

特有財産は除外される

「特有財産」とは、夫婦の協力とは無関係に取得した財産のことをいいます。

典型的には、以下の財産がこれにあたります。

結婚前に取得した財産(預貯金、嫁入り家具等)

・結婚後に親兄弟から贈与された財産や、相続した遺産

 

特有財産の範囲は、争われることが非常に多いです。

裁判では、特有財産であることを主張する側がそれを立証しなければなりません

立証ができなければ共有財産と事実上推定されてしまうので、立証ができるかどうか、ということが非常に重要になります。

例えば、自宅不動産の購入に際して、両親から頭金部分のお金を出してもらったという場合は、当時の両親の通帳から頭金に充てる現金を送金してもらった際の振込や引出しの記録を探すことになります。

4 財産分与に向けた資料収集

「夫婦双方の財産をリストアップする」とはいうものの、配偶者といえども、相手がどのような財産を持っており、どの程度の価値があるのかを正確に把握している方は多くないように思われます。

そして、夫婦が別居を開始し、その関係が決定的に悪化してしまった後は、相手から相手名義の財産をすんなりと開示してもらえるとは思わない方が賢明です。

したがって、別居に至る前の同居中に、相手の財産も含め、夫婦共有となる財産の範囲と価値を可能な限り把握しておくことが極めて重要になってきます。

 

財産分与においては、以下に挙げるとおり、あらゆる財産的価値のあるものが対象になります。最近では、確定拠出年金(個人型確定拠出年金=iDeCo、企業型確定拠出年金)や積立NISAをしている人も多いと思いますが、それらの制度を用いて積み立てた投資信託等の資産も対象になります。

不動産(居住用・投資用いずれも含む)

預貯金(財形貯蓄等も含む)

・株式、債券、投資信託等の投資商品

生命保険学資保険

・ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)

自動車

退職金

・ゴルフ会員権

・経営する会社の株式

・借金(住宅ローン等、夫婦の共同生活に必要なものに限る)

 

財産の種類ごとの特に問題となるポイントについては、各リンク先の解説記事に委ねますが、ここでは、主に資料収集の観点から、4つのポイントに絞って解説していきます。

 

①相手方名義の預金・株式・金融資産の調査方法

預貯金や株式などについては、取引先がどこの金融機関の何支店か、どこの証券会社か、という点が重要です。

これが分かれば、あとから弁護士の権限で照会をかけたり、裁判所を通じて開示させたり、といったことも可能になります。

具体的には、預金通帳をコピーする、あるいはウェブ上の口座ならアプリ上の取引履歴を写真にとっておくなどの方法により調査することが重要です。また、金融機関や証券会社から郵便でダイレクトメールが届くことも多いので、チェックしておきましょう。

預金通帳というのは、弁護士にとっては情報の宝箱です。相手方がこちらの知らない積み立てを行っていたり、何らかの代金・費用について引落しで支払いを行っている場合なども、預金通帳を見ればその存在・内容を把握できます。そのため、ある程度の期間の預金通帳があれば、財産分与においてずいぶん有利になるということを意識していただければと思います。

 

②価格が変動する財産の評価方法

不動産や車など、価格が変動する財産については、不動産登記車検証をコピーしたうえで、査定書を取っておくとよいでしょう。ただ、不動産登記や査定書は別居後でも取れるので、焦る必要はありません。

むしろ、押さえておくべきは、不動産や車、上場株式など、価値の変動する財産の評価額は、別居時ではなく離婚時で評価するということです。

例えば、別居時に3000万円だった不動産が、今では2500万円で取引されているという場合には、2500万円で評価します。つまり、別居から時間が経っている場合には、最近の査定書が大事、ということになります。

ちなみに、別居後に売却した、という場合は、その売却価格が共有財産の評価基準となります。

 

③生命保険・学資保険に関して収集すべき資料

生命保険については、別居時点での解約返戻金が生命保険の価値を表していると考え、その金額が評価基準になります。

保険会社と保険の番号(証券番号等)が分かっていれば、調査も可能です。

可能な限り、保険証券解約返戻金の金額が書かれている書類をコピーしておくとよいでしょう。

 

④将来の退職金も財産分与できる?

退職金については、まだ出ないのに対象になるの?という方も多いと思います。

これについては、あまりに若いと対象になりませんが、40代以降くらいであれば対象となることが多いので、落とさないようにしましょう。

ただし、定年でもらえる額ではなく、別居時に自主退職したと仮定した場合にもらえる額が基準となるという点に注意が必要です。

具体的には、勤務先の就業規則退職金規程を調査することになります。

5 財産隠しへの対抗手段

さて、離婚協議の中では、これらの財産について、まずは相手に任意開示を求める、ということになります。しかし、「そんな財産はない」などと言って開示しない、ということはよくあります。

そのような場合は、弁護士に依頼をすれば、弁護士法23条に基づく照会をかけたり、裁判所を通じた照会をかけたりすることによって、銀行や保険会社などから情報を開示させる、ということができます。

ただし、どこの銀行、どこの保険会社といった情報すらわからないと、照会先の特定に必要な情報が不足しているということでこれらの制度を利用できなくなってしまうので、やはり同居中の情報収集が重要になります。

 

また、財産分与を逃れるために不動産を売却しようとしている、そういった危険がある、という場合は、離婚調停を申し立てたうえで仮差押えという手続を取り、勝手に処分ができないようにしておくことも大切です。もっとも、一般の方がこちらの手続を的確に進めることはほとんど不可能と思われますので、必ず弁護士に相談するようにお勧めいたします。

6 財産分与を求める時期と手続

財産分与は、①離婚時に夫婦間で協議して行うのが通常です。

また、離婚時には財産分与について全く話し合わなかった場合でも、

離婚から2年以内であれば、改めて元配偶者に財産分与を求めることは可能です。

 

離婚と同時に財産分与を行う場合

まずは夫婦間で協議し、上記4つのステップに従って、分与方法を話し合います。

夫婦間で協議が調わないときや協議ができないときは、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することができます。

その場合、家庭裁判所に離婚訴訟を提起し、裁判所に離婚の可否と併せて、財産分与の可否・内容等についても判断してもらう必要があります。

 

離婚後に財産分与を行う場合

ここでも夫婦間での協議で解決できるようであれば、問題ありません。

他方、当事者間で冷静な話し合いが難しいという場合には、財産分与のみを対象にした調停を申し立てることになります。

この調停もまとまらなかった場合は、裁判所が審判によって財産分与の可否・内容等を判断することになります。

離婚後2年以内という時間的制約があるので、十分に注意してください。

執筆者情報

大阪和音法律事務所
大阪和音法律事務所
当サイトをご覧いただきありがとうございます。当サイトでは、相続に関するお悩みを持っている方向けに、相続をめぐる様々な事柄について解説しています。いろいろな思いを抱えておられる方も、肩の力を抜いて、何でもお話しいただけると思いますので、お気軽にご相談いただければと思います。最良の方法をアドバイスさせていただきます。
|当事務所の弁護士紹介はこちら