相続時に知っておきたい!遺産の使い込みとその対処法

ご親族が亡くなり、遺産分割協議を進めるべくご遺族の遺産を調べていたら、相続人の1人が遺産を使い込んでいた事実が発覚することがあります。

弁護士が関与する遺産相続紛争の中で、「遺産の使い込み」は特にご相談いただくことが多いトピックの1つです。

他方で、紛争解決に要する労力や時間、気を付けなければいけないポイントも多い難しいトピックでもあります。

そこで、この記事では、遺産の使い込みが発覚した場合の対処方法について、ご紹介いたします。

遺産の使い込みとは

使い込みの定義とその影響

遺産の使い込みとは、亡くなった方(法律上、「被相続人」と呼ばれます)の財産管理をしていた人が、故人名義の預貯金をはじめとする相続財産を、相続人全員での遺産分割が完了する前に、勝手に使ったり、自分のものにしてしまったりすることです。

一方、故人の生活費や治療費、介護費等、故人のために遺産が使われていたのであれば、使い込みとは言えません。

遺産の使い込みの最も大きな問題は、遺産分割の際に他の相続人が取得できる財産が事実上減ってしまうことです。

人が亡くなって相続が開始すると、通常、遺産の分配方法を決めるために、相続人全員で「遺産分割協議」を行います。

このとき、遺産分割の対象になるのは、その時点で現存している故人の財産です。

既に使われたり、故人名義ではなくなってしまったりしている財産は、原則として対象にすることができません。

したがって、遺産分割前に遺産が使い込まれた場合、本来よりも遺産分割の対象財産が減ってしまい、他の相続人らが不利益を受けてしまうのです。

相続財産の使い込みが発生するケース

使い込みの時期

イメージしやすいのは、①被相続人の生前に使い込んでいる事例です。

もっとも、相続が発生した後、相続人での「遺産分割」がすぐに行われるわけではありません。

銀行等が相続の開始を認識できていない間は預金の払戻しも事実上できてしまうため、②相続発生後、遺産分割前に使い込みが発生する事例も少なくありません。

いずれの時期なのかによって、取りうる法的手段が変わってくるので、この区別は非常に重要です。

使い込みの主体

故人と同居して介護していた子が使い込みをしてしまい、同居していない他の兄弟姉妹と争いになってしまう事案が典型例です。

もっとも、最近は親族付き合いが希薄化しているご家庭や独身のまま亡くなる方も増えてきているため、以下のようなケースもございます。

  • 故人の兄弟姉妹、甥姪で介護に関与していた人が使い込みをしてしまう事案
  • 法律上の相続人が疎遠で、相続権がない故人の配偶者の親族や、親友関係にあった方等が介護に際して財産管理を依頼され、使い込みをしてしまう事案

使い込みの客体(使い込まれる財産)

最も多いのは、いわゆる「使途不明金問題」と呼ばれる「預貯金の使い込み」ですが、下記に挙げるような他の種類の財産に関しても使い込みのトラブルが発生する場合がございます。

  • 親の不動産を勝手に売却して、売却益を自分の口座に入れていた
  • 親が所有するアパートの賃料を横領していた
  • 勝手に親の生命保険を解約して返戻金を着服していた
  • 親の証券口座で株式を勝手に取引していた
  • 実家から資産性のある貴金属や骨董品、美術品を勝手に持ち出した

遺産の使い込みに気づいたときの対処法

直接交渉

まずは、使い込みが疑われる人に対して、預金引き出し等の理由や事情を確認し、返還を求める事になります。

「いつ、いくら使い込んだのか」「いくら返還すべきか」を明確にする必要があるので、事前に通帳等の証拠資料を準備しておかなければなりません。

しかし、実際には、使いこみをした人が素直に返還することは稀です。

多くの場合、「使いこみなどしていない」「自分は適切に金銭管理していた」「自分は金銭管理に関わっていない」などと主張して自己の行為を正当化するケースがほとんどです。

使いこみをする相続人は、親と同居し、介護に関与していることが多いです。

高齢の親と同居している中では、嫁姑問題や介護などを通じ、様々な不満やうっぷんがたまることもあります。

そのため、親と同居していない他の相続人に対し、「親と同居せず、楽をしている無責任なきょうだいだ」という思いを持っていることが多いです。

そのような相手から「遺産を使いこんだ」と言われても、到底納得できないという思いになることが少なくありません。

「親の事を何もしていない者に言われたくない」「うるさい親の面倒を見ているのだから、このくらいもらっても良いだろう」などと自分を正当化し、自ら壁を作ってしまう傾向があると言えるでしょう。

他方、遺産の使いこみを疑う相続人の側も、親と同居している相続人に対し、「同居しているのだからいろいろ利益を得ているだろう」と疑心暗鬼になりがちです。

そのため、いったん疑い出すと切りが無く、「もっと使い込んでいるんじゃないか」「他にも遺産があったはずじゃないか」と、開示や説明などを次から次へと求めがちです。

このような対応が、相続人間の対立を激化させてしまいます。

遺産の使いこみは、背景に上記のような相続人間の感情的な対立や疑念が存在することが多く、それゆえに激しい紛争に発展してしまうことが多いです。

そのため、協議や調停では解決できず、訴訟に発展するケースも少なくありません。

協議での早期解決を目指すのであれば、使い込みと決めつけて非難するところから始めるのではなく、同居相続人の生前の貢献に感謝は示しつつ、冷静に証拠に基づく説明を求めることが重要ですが、人間である以上、なかなか簡単には切り分けができないものです。

遺産分割調停・審判

相続人間の紛争解決手続というと、家庭裁判所での「遺産分割調停」をイメージされる方が多いと思います。

近年の相続法改正もあり、実際に、遺産の使い込みの問題を遺産分割調停の中で一体的に解決できる場合はあるのですが、下記のとおり、限定されています。

使い込みの時期が生前か死後かで、遺産分割手続内での取り扱われ方が大きく変わってきます。

また使い込みをしたのが相続人や、遺言書で遺産を包括的に贈与されている人ではない場合は、この手続での解決はできません。

 

生前の使い込みの場合

遺産分割をするためには「遺産の範囲」が確定している必要があります。

分割の対象とする遺産の範囲自体について相続人が共通認識を持っていなければ進めることができません。

この意味で、「遺産の範囲」の問題は、遺産分割の「前提問題」ないし「付随問題」と言われます。

上記のとおり、遺産分割の対象にできるのは、原則として現時点で存在する分割未了の遺産です。

そのため、使い込まれて現存しない財産を対象に含めるためには、使い込んだ相続人も含む相続人全員の合意が必要です。

そもそも故人のために使った等、使い込みの事実自体を否定しているような場合は、本来訴訟手続の中で解決すべき問題と整理されます。

そのため、3回ほど期日を重ねても生前に使い込まれた財産を分割対象に含めることについて合意形成が見込めない場合は、それ以上調停手続の中で取り扱ってもらうことはできません。

調停が不成立になり、審判へ移行しても同様です。

一方、使い込みを疑われている相続人が、使い込み自体は争わず、「故人の意思で贈与された」と主張している場合は、現存している遺産のみを分割対象としつつ、その分配割合を生前の「特別受益」を踏まえて法定相続分から修正するという解決策もあります。

ただし、「特別受益」として扱うことができる生前贈与は、「婚姻、養子縁組または生計の資本のための贈与」だけですので(民法903条)、これらに当てはまらない場合(1回あたりの出金額が少額の場合等)は、現存する遺産の配分の修正では解決できません。

持ち戻し免除の意思表示がされている場合も、遺産分割割合の修正はできません(同条3項)。

また、生前に財産を貰いすぎている相続人がいても、遺留分を侵害していない限り、超過分の取り戻しはできません(同条2項)。

 

死後の使い込みの場合

生前の財産処分の場合は、故人の意思に沿った処分や、故人のための処分の可能性が否定できませんが、死後に遺産分割を経ずになされた遺産処分は、明らかに共同所有者であるはずの相続人間のルール違反です。

このような場合にまで訴訟提起をしなければ使い込まれた財産を取り戻せないとすると、無断処分した相続人が利する結果になり、不公平です。

そこで、平成30年の法改正で、死後に遺産を処分した相続人を除く全ての相続人の合意があれば、死後に処分された財産も現存するものとみなし、処分した相続人に処分額と同額が分配済みという前提で、残りの遺産の分配割合を決めることができるようになりました(民法906条の2)。

ただし、この規定を使うためには、前提として処分した相続人を特定できなければいけません。

財産処分への関与自体を否定している場合は、利用できません。

また、処分に関与していない相続人が同意しない場合も、この規定を使うことができず、訴訟手続を利用することになります。

訴訟

話合いや遺産分割審判でも解決できない場合は、民事訴訟を提起し、裁判所に支払いを命じてもらう必要が出てきます。

訴訟の中で使い込み財産の返却を求める際の法律上の根拠・構成としては下記に挙げるような複数のパターンがあり、これらを並列的に組み合わせて主張することも可能です。

どの構成で主張する場合も、立証すべき事実は概ね共通しているのですが、主に消滅時効の部分で違いが出てきます。

ア 不当利得返還請求(民法703・704条)

法律上の原因なく他人に損失を与え、利益を得た人に対して、利益の返還を求めるという構成です。

遺産の使い込みの場面にあてはめると、故人からの委託や、贈与意思に基づかずに、故人の財産を横領したのであるから、横領して得た利益を返還せよ、ということになります。

生前の使い込みの場合、直接の被害者は故人となり、各相続人は故人が持っている「不当利得返還請求権」を相続することになります。

証明すべき事実を簡単に表現すると下記の3点になります。

  • 被告が使い込みによって故人に損失を与え、利益を得たこと(利得金額も)
  • 使い込みが被告と故人との間の(贈与・委任等の)合意に基づくものでないこと
  • 相続が発生したこと

イ 不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)

故意または過失による加害行為によって損害を受けた人が、行為者(加害者)に対して損害の賠償を求めるという構成です。

遺産の使い込みの場面にあてはめると、他人の財産を無断で使い込んではならないという社会規範に違反して故人の財産を使い込んだ以上、使い込みによって与えた損害を賠償せよ、ということになります。

不当利得と同様に、生前の使い込みの場合は、故人の損害賠償請求権を各相続人が相続することになります。

証明すべき事実を簡単に表現すると下記の3点になりますが、実質的には不当利得の場合と重なります。

  • 被告が故人の財産を(故人との合意や遺産分割協議に基づかず)使い込んだこと
  • 使い込みによって生じた損害額
  • 相続が発生したこと

ウ 委任契約上の善管注意義務違反に基づく損害賠償請求(民法415条・644条)

故人と被告の間に一定の包括的な財産管理の委任関係は認められる場合に、被告が委任の趣旨を超えて財産を使い込んでいると主張して、委任の趣旨に沿わない使い込み部分の損害を賠償せよ、と請求していく構成も考えられます。

この場合も証明すべき事実は上記2つの構成と概ね同様です。

エ 遺留分侵害額請求(民法1046条)

「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に法律で保障された、最低限相続できる遺産の割合のことです。

亡くなった時点で存在する故人の財産に、一定の条件を満たす生前贈与を加算し、その総額に対して、一定の割合をかけて算出されます。

ここでいう「亡くなった時点で存在する故人の財産」には、上記ア~ウに挙げるような使い込みをした人に対する各種請求権も含まれるため、最低限各相続人に確保されるべき「遺留分」を計算する際にも、無断で使い込まれた遺産の金額は問題となってきます。

この構成であれば、仮に使い込みではなく、故人の意思に基づく贈与と認められてしまった場合でも、一定の条件(死亡前1年以内、特別受益等)を満たす限り、死亡時点の他の遺産と合算し、一定割合の金銭を支払ってもらうことができます。

ただし、使い込まれた財産のうち、法定相続分より少ない遺留分割合の限度でしか返還を求めることができない、兄弟姉妹が相続人となる場合には利用できないといった法律上の限界があります。

遺産の使い込みを証明するための証拠

どの法律構成を用いる場合にも必要となるのは、「遺産の使い込み」の証明です。

使い込みの事実は、より細かくみると次の2つに分けられます。

  • ①故人の財産を処分=換金(預金の場合は払戻)したこと
  • ②処分して得た金銭を故人ではなく、自分のために使用または隠匿したこと

処分者・出金者の特定

まずは、財産を処分、ないし預金を払い戻したのが、故人ではなく相手方であることの証明が必要です。

故人名義の預金口座から出金された事実や、その金額、その他の金融資産(保険・有価証券等)でも、処分された記録自体は、金融機関から取引履歴を取り寄せることで確認できます。

しかし、これだけでは、出金・処分の主体が故人なのかそれ以外の誰かなのかは分かりません。

最も確実なのは、相手方がATMでキャッシュカードを使って引き出している場面の映像・写真や、相手方が書いた払戻依頼書といった、直接的な証拠です。

これらの証拠を金融機関から取得できれば、使い込みの証明は半分クリアしたといえます。

また、直接的な証拠が得られない場合でも、下記に挙げるような間接的な証拠を積み重ねれば、相手方の関与を推測できる場合があります。

  • 故人が自ら外出したり、預金を出金したりできる健康状態ではなかったことをうかがわせる診療録、診断書
  • 通帳、印鑑の保管、管理者、故人の当時の財産管理能力や認知能力の低下について記載されている要介護認定調査票
  • 故人の自宅と口座を保有している金融機関の支店の間の距離関係
  • 故人名義口座からの出金額の推移、当時の故人の生活状況の変化との照合
  • 不審出金と近接した時期の相続人名義財産の増加(不動産購入等)

預金取引履歴や診療録は、相続人から請求があれば、任意に開示してもらえることが多いですが、銀行や病院ごとに申込方法が異なっているため、その確認は意外と大変です。

任意に開示してもらえない場合も、弁護士との委任関係があれば、弁護士会を通じた照会ができますし、訴訟まで進んだ後に、裁判所を通じた調査嘱託をすることで開示してもらえることが多いです。

不正領得の有無

預金払戻し、財産処分への関与自体は証明できていると判断された場合は、使い込みを疑われている側に払戻金の使途の説明や証拠提出を求められることが多いです。

この場面で使い込みを疑われている側からよく出てくる反論を類型化すると、主に下記の3パターンに整理できます。

ア 費消使途明示型

故人の生活費、入院費用、葬儀費用等のために費消したというパターンです。

明確に領収書が残っている故人のための出費であれば、当然に使い込みが否定されます。

問題は領収書が残っていない場合ですが、家族間では、日々の生活費などについて、細かく領収書を保管する習慣がないことが多く、全ての取引を明確に証明することは難しいものです。

そのため、故人の従前の生活状況や資産状況等から相当な生活費といえる金額までは、合理的な出金と認められることが一般的です。

 

イ 本人交付型

故人から預金の払戻し事務のみを依頼されており、払い戻した現金は故人本人に渡したというパターンです。

この場合は、下記の各事情を総合的に勘案して、引出者の言い分や説明内容が合理的に理解できるか、それを信用できるかが判断されます。

そのため、裁判官を納得させる論理的な事実関係の説明(ストーリー)が重要となります。

  • 出金当時の故人の財産管理能力、認知判断能力
  • 故人と引出者との人間関係、信頼関係
  • 引出依頼を受けるに至った経緯
  • 預金通帳等の管理方法
  • 判明している引出金の使途
  • 預り金残金の処理方法

ウ 贈与型

故人の意思で、自身や第三者に対して贈与されたというパターンです。

この場合に、贈与の存在自体は認めたうえで、遺産分割調停・審判や、遺留分侵害額訴訟での解決を図るという選択肢があることは前記のとおりですが、贈与の有無自体が争われることも多いです。

贈与契約書や贈与税申告書があれば一番明確ですが、これらがない場合も、当時の故人や各相続人、受贈者等の生活状況、経済状況や、使途が判明している遺産の費消状況等から、贈与の動機が合理的に説明できる場合には、使い込みが否定されることになります。

使い込まれた遺産の取り戻し請求の時間制限

上記のとおり、使い込まれた遺産を取り戻すためには、証拠の収集だけでもかなりの時間と労力を要します。

しかし、使い込まれた遺産の取り戻しを求める請求には、「消滅時効」という時間制限があります。

時効が完成してしまうと、どれだけ完全な使い込みの証拠が揃っていたとしても、遺産の取り戻しは実現できなくなってしまうため、特に注意が必要です。

消滅時効の完成に必要な具体的な期間の長さは、取戻しを請求する際の法律構成に従って、下記のとおり区別されています。

不当利得返還請求、委任契約上の善管注意義務違反に基づく損害賠償請求

下記の2つの期間制限があります(民法166条1項)。

ただし、使い込みの時期が現行債権法の施行日である令和2(2020)年3月31日以前の場合は、②の期限だけ気を付ければ大丈夫です。

  • 主観的時効期間:使い込みを知ったときから5年間
  • 客観的時効期間:個別の使い込み行為から10年間

不法行為に基づく損害賠償請求

こちらも下記の2つの期間制限があります(民法724条)。

  • 主観的時効期間:使い込みを知ったときから3年間
  • 客観的時効期間:個別の使い込み行為から20年間

遺留分侵害額請求

使い込みを追及していく中で、故人からの生前贈与の存在が発覚し、遺留分侵害請求を行う場合は、下記の2つの期間制限があります(民法1048条)。

  • 主観的時効期間:生前贈与を知ったときから1年間
  • 除斥期間:相続開始のときから10年間

※時効と異なり、受益相続人による主張の有無を問わず請求ができなくなります。

遺産分割の中での特別受益の主張

使い込みを追及していく中で、故人からの生前贈与の存在が発覚した場合に、相続人間の遺産分割の中で特別受益の主張をすることができるのも、相続開始から10年間に限られます(民法904条の3)。

時効完成前にやっておくべきなのはどこまで?

裁判所外で使い込み財産の返還を請求するだけだと、相手が返還義務を承認しない限り、6か月間時効の完成を妨げるだけです(民法150条、152条)。

裁判所の調停や訴訟には相応の時間がかかりますが、調停の申立て、訴訟の提起と同時に、時効の完成が猶予されます(民法147条)。

そのため、時効が完成してしまう前に、裁判所の手続が始まっていれば、問題ないということになります。

弁護士に依頼するメリット

遺産の使いこみ問題が発覚した場合、次のような点から、弁護士に対応を依頼することを強くお勧めします。

資料収集がスムーズ

前述したような資料の収集を、ご自身で行うのは非常に時間や労力がかかります。

個人ですべての資料を収集するのは限界があるでしょう。

また、金融機関や医療機関が資料開示に協力してくれない場合も、弁護士が弁護士会や訴訟手続の中で開示を依頼すれば、回答してもらえることが多いです。

仲の悪い親族同士で直接話さなくてもよい

遺産の使い込みをめぐって激しい感情的な対立関係にある親族同士の間では、顔も見たくない、口もききたくないと思うことも多いでしょう。

弁護士に依頼をすれば、交渉の窓口は全て弁護士になり、仲の悪い親族と話をする必要はありませんし、いたずらに感情的になってしまうことを防ぐことができます。

話が進みやすい

親族だけで話をしようとしても、相手がいい加減な対応に終始し、また感情的になってしまい、話が進まないことが往々にしてあります。

この点、弁護士から連絡があれば、対応を怠っていると訴訟などの法的手的続きに進んでしまいますから、相手方も対応せざるを得なくなります(場合によってはお互いが弁護士に依頼するということもあります)。

また、仲の悪い親族本人から話をするよりは、怒りも緩和され、結果的に協議も進みやすいと言えます。

相手方の主張に惑わされない

法的知識がないまま相手方と協議をしても、使い込みなどに関する相手方の言い訳に、そうなのかと思ってしまい、何ら有効な対策や反論ができないことがあります。

弁護士に依頼することで、相手方の主張が法的に妥当な主張なのかそうでないのかを理解したうえで対応できますので、相手方の主張に惑わされず、有効な対策を立てることができます。

法的手続での責任追及ができる

直接返還を求めても相手が使い込み額の返還に応じない場合には、「訴訟」を起こして相手の責任を追及する必要があり、実際訴訟をしなければ解決できないケースもたくさんあります。

訴訟手続を素人の方が行うのは非常に難しく、お勧めしません。

弁護士に依頼することで、交渉が決裂すれば速やかに訴訟提起に移ることができます。

遺産分割の手続まで含めて任せられる

遺産の使い込みの問題は、遺産分割を行う上での前提問題に過ぎません。

使い込みの問題が解決すれば、本題である遺産分割協議が控えています。

使い込みの問題で訴訟などを経て感情的対立が激化することも多く、その状態で直接親族間で協議をするのは非常に困難ですし、実際なかなか進まないと思います。

弁護士に依頼することで、使い込み問題の後に控えている遺産分割についても、協議・調停・審判という手続を見据えた法的対応をすべて任せることができますので、安心です。

まとめ

上記のとおり、一部の相続人による遺産の使いこみがあった場合、相続人同士で激しい争いが発生する可能性が高いです。

しかし、法律の専門家でない人たちが感情的になって争い続けるだけでは、誰の利益にもなりません。

早めの段階で相続問題に強い弁護士に相談することをお勧めします。

当事務所では相続に関する初回相談は60分無料ですので、お気軽にご相談ください。

遺産の使い込みを防ぐための対策

本記事で紹介したとおり、遺産の使い込みの問題は、一度発生すると非常に複雑かつ根深い紛争を生み出してしまいます。

そもそもこのような使い込みを予防することができれば、一番です。

使い込みを防止するための方策としては、下記のようなものがあります。

家族間での情報共有

老衰等の理由で財産管理を特定の相続人に任せている場合は、他の相続人が定期的に親の預貯金の状況などを確認し、情報を共有することが重要です。

「他の相続人が見ている」という状況は使い込みの抑止につながります。

万が一不正な引き出しがあった場合にも、すぐに気づくことができます。

法定後見制度(成年後見/保佐/補助)

既に認知能力が低下してしまっている場合に、裁判所に財産管理を行う人を選任してもらう制度です。

もっとも、下記に挙げるような理由から、利用しにくいという声も多く、現在法改正の準備が進められています。

  • 選任請求者が保護者(後見人等)に就任できるとは限らない
  • 財産目録作成、定期報告の負担の重さ
  • 保護者の収支報告先は家庭裁判所で、家族による記録閲覧も許可制
  • 認知能力低下の程度によっては、同意権までしか付与されない
  • 専門職後見人、後見監督人、後見制度支援信託、後見登記の費用負担
  • 認知能力が回復しない限り、死亡するまでやめることができない

任意後見制度

親が元気なうちに、財産管理ができなくなってしまったときの財産管理者(任意後見人)と代理権限、監督者を公正証書であらかじめ決めておく制度です。

これを勧めるWebサイトも多いですが、実際に後見人による財産管理を開始する時期の見極めが難しく、認知判断能力が低下する前から財産管理契約を別途締結している場合には、監督人の登場を嫌った財産管理人がいつまでも任意後見契約を発効させないといった問題のある利用実態も報告されているため、注意が必要です。

家族信託

信頼できる家族(法定相続人に限られない)に財産を信託することです。

死後の財産承継も併せて決めておくことができるため、後見と遺言のハイブリッドのような位置づけです。

下記に挙げるように、メリットも多いですが、デメリットや注意点もあるため、必ず法律の専門家によく相談したうえで検討するべきです。

メリット

  • 認知能力低下、相続開始を待たず即時に発効する
  • 生前の財産管理と死後の財産承継を同時に行える
  • 他界しても預金凍結を受けない
  • 不動産の名義移転に贈与税がかからない(相続税はかかる)
  • 財産管理が透明になる
  • 遺言ではできない内容の承継方法(定期給付、二次的承継等)を定められる
  • 相続税対策、詐欺被害防止に繋がる
  • 管理費用を節約できる

デメリット、注意点

  • 設定行為(信託行為)が専門的かつ複雑になる
  • 安心して財産を預けられる家族が必要
  • 不動産については信託登記費用がかかる
  • 財産の信託であるため、身上監護を盛り込むことはできない
  • 受託者の義務(善管注意義務、忠実義務、計算書類の作成報告等)の負担
  • 受託者とならない他の推定相続人との間で紛争の原因となる
  • 信託終了事由・受益者の確定、相続税・遺留分等にも注意を要する

遺産の使い込みに関するよくある質問

使い込みは犯罪になるのか?

本記事で紹介したのは、あくまで民事上の法律関係です。

これらの賠償責任、返還責任とは別に、刑事処罰の対象となる場合はあります。

管理を任された通帳やキャッシュカードを悪用して預金を出金し、自分のものにしたり、自分のために使ってしまったりする行為は「横領罪」にあたります(刑法252条)。

財産管理の委託がない場合は「窃盗罪」になります(刑法235条)。

もっとも、使い込みをした人が口座名義人の配偶者や子ども、同居親族の場合は、「法は家庭に入らず」という政策的な考慮から、刑罰が免除されています(刑法255条、244条)。

逆に言えば、使い込みをした人がこれらの親族にあたらない場合(相続人の配偶者や別居親族)は、刑事告訴も可能です。

刑事事件として捜査が進展し、言い逃れの余地のない証拠が出てきた場合は、刑事処罰を回避するために、弁護人を通じて被害金の弁償等が進められる可能性もあるため、同居親族以外の方が使い込みをしている場合には、検討してみるのもよいでしょう。

税金関係

ア 使途不明金は相続税の対象になるか?

一口に「使途不明金」「使い込み」と言っても、その実態には様々なものがあり、実態によって税務上の取り扱われ方も異なります。

  • 遺産隠し、租税回避目的での隠匿と判断される場合:単なる使途不明金より悪性の強い「使途秘匿金」として重加算税の対象となる場合があります。
  • 実際には故人のために使われているが、証拠書類が残っていない場合:通常の生活の中で費消されうる範囲内の金額であれば、課税対象財産にはなりませんが、できる限りの領収書類は揃えるべきといえます。
  • 親族や第三者による横領の実態がある場合:故人の横領者に対する不当利得返還請求権(ないしその他の損害賠償請求権)が課税対象財産の一部として扱われます。

イ 相続税申告期限までに使途不明金紛争が決着していない場合は?

相続税の申告期限は相続開始から10か月とそれなりの期間は確保されているものの、使い込み紛争の解決もまた相当な労力と時間を要するため、申告期限内に使途不明金の実態が明らかにならないことも多いです。

その場合に使途不明金をどのように扱って申告を進めるかですが、理論上は、下記の2パターンの対応方法が考えられます。

  • ①故人に対する不当利得返還請求権も相続財産の一部に加えて相続税申告:横領の実態がないことが判明した場合は、事後的に「更正請求」を行い、納付しすぎた税金の還付を受ける。
  • ②故人に対する不当利得返還請求権を相続財産に含めずに相続税申告:横領の実態と被害金額が判明してから「修正申告」し、不足税額を追納する。

どちらの対応でも、きちんと事後的な報告を税務署にするのであれば、税法上は問題ないのですが、②の方法ですと、使途不明金紛争の解決に長い時間がかかってしまった場合に、高額な延滞税が発生してしまうリスクがあります。

そのため、どちらかといえば①の進め方が無難だろうと言えそうです。

 

ウ 生前の使い込みは「みなし贈与」として贈与税の対象となるか?

「みなし贈与」とは、民法上の贈与にはあたらないものの、税負担の公平上、贈与があった場合と同様に贈与税の課税対象とされる場合をいいます。

例としては、著しく安い代金で財産の提供を受けた場合や、借金の肩代わりや免除を受けた場合等が挙げられます。

使い込みとの関係では、民事上も賠償責任が認められるような横領の実態を伴う場合は、故人に贈与の意図がなかったとしても、「財産の無償譲受、対価支払なしの利益供与」として、贈与税の対象と扱われる場合があります。

もっとも、贈与税の一種ではあるので、基礎控除や各種非課税特例、租税債権の消滅時効等を利用できる場合はあります。

いずれにしても、専門家である税理士に十分相談の上で対応すべきです。

 

エ 他の相続人による遺産の使い込みが疑われる場合に、税務署へ通報すべきか?

税務署職員による税務調査の中で、使途不明金の実態が明らかになることに期待して、税務署への通報を検討される方も時々おられます。

もっとも、相続税の計算は、まず課税対象となる相続財産の全体額を確定させてから、各人の法定相続分や実際の取得割合で割り付ける計算をします。

そのため、課税対象財産に不当利得返還請求権が加えられた結果、ご自身の納付すべき相続税の金額も増加してしまうという結果も同時に生じてきますので、その点は意識しておく必要があるように思います。

また、税務署はあくまで課税事務のために調査を行うのであって、調査結果を他の相続人に逐一報告してもらえるわけではありません。

税務調査への対応に追われることによって、使い込みを疑われている方の敵対感情がより悪化し、かえって使い込まれた遺産の取り戻しが困難になる可能性も考えられます。

執筆者情報

大阪和音法律事務所
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