被相続人に前妻・後妻がいる場合のトラブルとその対処法
相続にはいろいろなパターンがありますが、一人の方が複数回結婚し、それぞれ子をもうけたような場合には、複雑な問題が発生することがよくあります。
被相続人から見て「前妻」、「後妻」、「前妻との間の子」、「後妻との間の子」、「後妻の連れ子」といった様々な立場の人が相続に関係することになるからです。
たとえば、以下のような事例が考えられます。
- Aさんは甲女さんと結婚し、子の太郎さんをもうけた後に離婚しました。
- その後、Aさんは乙女さんと結婚して子の一郎さんをもうけました。
- 乙女さんには、Aさんと結婚する前に他の男性との間にもうけた子(聡太さん)もいました。
このような事例でAさんが亡くなったときのことを想定してみましょう。
太郎さんは「父が若いころ母(甲女さん)と苦労して築いた財産が、そんな苦労を知らない後妻(乙女さん)や後妻の子(一郎さん)に引き継がれることは許せない!」と思うかもしれません。
また、後妻の乙女さんは「夫の面倒を見ているのは私なのに、今やほとんど夫と交流のない前妻の子(太郎さん)が財産を取得するなんて納得できない!」と思うかもしれません。
さらには、Aさんが、「自分が亡くなった後は、自分の財産は後妻の乙女さんや乙女さんの連れ子の聡太さんに財産を引き継がせたい」と考えるかもしれません。
このように、当事者の思いがバラバラな状況では、関係者の言い分が食い違い、実際にAさんが亡くなった後、親族間でトラブルとなってしまう可能性があります。
では、そのようなトラブルを回避するためにはどのような方法が考えられるでしょうか。
以下、具体的に説明していきます。
1.被相続人の立場から
被相続人(Aさん)が「自分の財産は、前妻の子(太郎さん)には相続させたくない!今自分とともに生活をしている後妻(乙女さん)と後妻の子(一郎さん)にだけ相続させたい」と思った場合、これを実現させようとするにはどうすればよいでしょうか。
このような場面で、Aさんが「生前に前妻の子や後妻、後妻の子によく自分の意思を言い聞かせたから、多分希望通りになるだろう」と考え、何も対策をせずに亡くなってしまうと、トラブルの元になります。
法的には、前妻の子・後妻・後妻の子などの法定相続人が遺産を共有することとなり、その上で相続人全員の合意(多数決ではありません!)により遺産の配分を決めなければいけなくなります。
このとき、相続人全員がAさんの生前の意思どおりの内容で合意ができればいいのですが、各相続人が相続により得られる財産に大きな差があることが分かると、損をする人が異議を唱えて全員一致の合意が難しくなります。
ひいては感情的な対立にまで発展してしまうということがよく起こります。
こうなってしまうと、遺産の配分を相続人の合意で決することは不可能となり、家庭裁判所の審判手続で決着をつける必要が出てきます。
ただ、裁判所が審判で結論を出す際、被相続人が生前にどのようなことを希望していたかという点はほとんど重視されません。
すべての法定相続人が法定相続分どおりに遺産を取得するのが原則です。
では、そのような事態に陥ってしまうことを防ぐため、被相続人のAさんは生前にどのような対策をとることができるでしょうか。
遺言を書く
まず遺言を書くことが考えられます。
法律上の形式にのっとって遺言(自筆証書遺言か公正証書遺言)を作っておけば、原則としてその遺言通りに遺産を相続人に引き継がせることができます。
ただ、一定の法定相続人には遺留分、すなわち最低限の取り分が保証されています。
遺言に基づいてその最低限の取り分を取得できなかった法定相続人は、他の遺留分以上の遺産を承継した相続人に対し、自己の遺留分を下回った分に相当する現金を支払うよう請求できます。
被相続人として、自分の死後のトラブルをできる限り避けたいのであれば、最初から法定相続人の遺留分を侵害しない内容の遺言を意識することが重要と考えられます。
そのような内容の遺言があれば、被相続人が亡くなった後、相続人は残された遺言に従って粛々と遺産を分配するだけであり、トラブルになる可能性は大幅に低くなるといえます。
生前贈与を活用する
遺言だけでなく、より多く自分の財産を承継させたいと考える法定相続人に対し、被相続人が生きている間に財産を贈与することも考えられます。
この財産は被相続人が亡くなった時点では被相続人のものではなくなっているため、相続の対象に含めなくてよいことになります。
ただし、この生前贈与は相続人間の遺産分割協議においては「特別受益」に該当する可能性があります。
また、一定の限度で他の相続人の遺留分を侵害したとして一定額を支払うよう求められる可能性も残ります。
被相続人は、生前贈与を行うに際してもその点を充分に考慮しておく必要があります。
相続人の廃除
さらには、被相続人が一定の相続人にはどうしても相続させたくないと考える場合、場合によっては、当該相続人を生前に、あるいは遺言で「廃除」し、相続権を強制的に喪失させることができるかもしれません。
ただこれは、その相手が被相続人に対して一方的な虐待や重大な侮辱を加えたとき、あるいは、その相手に著しい非行があったときという要件を充たす場合のみです。
しかも、家庭裁判所の審判により決定を受ける必要があります。
連れ子との養子縁組
被相続人が相続権がない後妻の連れ子に自分の財産を承継させたいと考えた場合、できるだけそれをトラブルなく実現するためには、生前に後妻の連れ子と養子縁組することも考えられます。
養子縁組をすれば、後妻の子も相続権を有し、他の法定相続人と同様の権利をもつことができます。
その上で、前述の遺言や生前贈与も組み合わせて活用することが考えられます。
2.前妻の子または後妻の子の立場から
では、相続人である前妻の子や後妻の子の立場から、被相続人が亡くなった後の相続でトラブルが生じた際、できる限り自分の利益を守るためにどのようなことに留意する必要があるでしょうか。
遺言の有効性の確認
まず、被相続人が遺言ですべての遺産を前妻との間の子に相続させ、後妻との間の子には一切の財産を相続させないという内容の遺言を作成していた場合などが考えられます。
後妻の子がその内容に納得がいかないと感じたときは、まずその遺言の有効性を充分に吟味・検討する必要があるでしょう。
たとえば、遺言を作成した際、被相続人に充分な意思能力があったかという点を確認しましょう。
そのためには、被相続人が遺言を作成した当時の健康状態を病院のカルテで確認したり、被相続人の生活状況を当時のことを知る人から聴取するといったことが重要になってきます。
遺言が自筆証書遺言の場合は、その形式が民法が求める条件をクリアしたものになっているかという点も確認する必要があります。
遺留分侵害額請求
また、遺言の有効性を争うことができないとしても、その遺言が遺留分を侵害した内容になっていないかという点を検討する必要があります。
もし、遺言の内容が遺留分を侵害している場合は、他の相続人に対して遺留分侵害額請求を行い、自らの権利を確保する手段があります。
ただ、遺留分侵害額請求には期間制限(自らが相続人であることを知ってから1年間)がありますので、その点にも充分注意が必要です。
相続放棄の検討
被相続人の遺言の内容にどうしても納得がいかない場合、相続放棄を行うこともできます。
相続放棄を行うと、最初から自分は相続人でなかったことになります。
被相続人の遺言で自分が望まない遺産が押しつけられたといった事情がある場合や、資産以上に負債も被相続人から引き継がざるを得ないことが分かった場合などに相続放棄をすれば、相続人も自分の利益を守ることができます。
もっとも、相続放棄も、その行使には被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内といった期間制限があります。
また、一度遺産を引き継ぐ行動をとった後は相続放棄ができなくなってしまいますので、相続開始後はできる限り早く、そして慎重に検討を行う必要があります。
まとめ
以上のとおり、被相続人に前妻・後妻がいるようなケースでは、相続発生後にいろいろなトラブル・紛争が生じる可能性があります。
そのトラブルへの対処法や、そもそもトラブルを生じさせないようにする方法にはいろいろなものがあります。
しかし、いずれも正確な法的知識とトラブルに対処した豊富な経験がないと、適切な対応は難しいと思われます。
もし、単独で対応することが難しいと感じられた場合は、相続に関連する案件を多く扱う弁護士に是非ご相談ください。
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