前妻・後妻の相続トラブル

父親(被相続人)が離婚歴のある方の場合、前妻のお子様と、後妻または後妻のお子様との間で相続トラブルになるケースは非常に多いです。

 

前妻のお子様からのよくあるご相談

 

「後妻が父の財産を独り占めしようとしている」

「父の遺言に自分への相続分が書かれていない」

「後妻の子が父の遺産を開示してくれない」

「後妻やその子どもたちから、一方的に相続放棄を求められた」

 

後妻、または後妻のお子様からのよくあるご相談

 

「これまで関わりのなかった前妻の子と、遺産分割協議を進めることに不安がある」

「前妻の子に、夫(父)の財産を相続させない方法はないだろうか」

 

このようなケースに陥ってしまった場合、どのように解決していけばよいのでしょうか。

 

あなたが前妻のお子様の場合

 

父親(被相続人)が遺言を残している場合

 

被相続人が遺言を残している場合、「自分への相続分が記載されていなかった」、あるいは「自分への相続分が法定相続分を下回っていた」ということがありますので、まずは、自分への相続分があるかどうか、また、その相続分が適切かどうかを必ず確認しましょう。

自分への遺産がない場合や適切な遺産額ではない場合、他の相続人に対して請求を行う必要があります(遺留分侵害額請求)。ただし、請求できる期限が決まっているため注意が必要です。

 

父親(被相続人)が遺言を残していない場合

 

被相続人が遺言を残していなかった場合は、相続人全員で遺産分割協議をおこなう必要があります。

しかし、後妻やその子から協議を持ち掛けられたところで、「被相続人がどんな財産を所有していたか分からない」という問題に直面することがあります。後妻側が口座の取引履歴や不動産の登記簿等、財産に関する資料の提供に応じてくれればよいのですが、実際は故人にもっとも近い存在だった後妻が財産を隠したまま、前妻の子に不利な内容での合意を求めたり、相続放棄をするよう迫ったりするケースも散見されます。

そのため、「財産はほとんど残っていない」と言われたとしても、隠し財産が疑われるようならしっかり相続財産の調査を行ってから協議に臨むようにしましょう。具体的には被相続人が口座を持っていそうな金融機関で預貯金の残高証明書や取引履歴の発行を受ける、法務局に登記事項証明書を発行してもらう、等の作業を行うことになります。(相続財産調査サービスへのリンク)

 

父親(被相続人)の死を知らなかった場合

 

 遺産分割協議は相続人全員が参加しなければ無効

 

遺産分割協議は相続人全員で行われる必要があり、一部の相続人だけで行った遺産分割協議は無効となります。そのため、相続人全員の同意が取れていることが確認できなければ、法務局はこれらの手続きに応じません。

 

したがって、原則として後妻側で勝手に相続手続を完了させることはできず、たとえそれまで面識がなかったとしても、相続人調査のうえ前妻の子であるあなたにも連絡が来ることが通常です。もし何らかの書面に署名・押印を求められたら、まずは落ち着いて内容をよく確認するようにしましょう。

 

ただし、被相続人が「財産を後妻にすべて相続させる」という内容の遺言を残していると、相続人全ての同意が得られていない状況でも手続きが完了してしまうことがあります。

 

 借金の相続について

 

相続財産には、預金や不動産といったプラスの財産だけではなく、借金のようなマイナスの財産も含まれます。もし、被相続人の財産を調べた結果マイナスの財産の方が多かった、というようなときには、相続放棄をすることで借金の返済等の負担から免れることができます。

 

相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」という期間制限があります。被相続人の前妻の子が被相続人本人や後妻らとの関係が希薄である場合、被相続人の死亡をすぐに知らせてもらえないということがありますが、そのような場合は、前妻の子が被相続人の死亡を知らされた時点からこの3か月のカウントがスタートします。被相続人死亡の知らせを受けたら、期限内に相続財産を調べて相続放棄をするか否か決めなければなりません。

 

あなたが後妻、または後妻のお子様の場合

 

被相続人が亡くなる前に取れる手段

 遺言書の作成

 

被相続人の生前に、遺言を残してもらう方法が有効です。遺言は紛失や改ざんのおそれがなく、検認も不要な公正証書遺言の形式で作成することをお勧めします。

 

被相続人が「後妻(後妻の子)にすべての遺産を相続させる」旨の内容で遺言を作成すれば、被相続人の死後はその内容に従って相続手続を進めることが可能になります。また、遺産分割協議は前妻の子を含めた相続人全員が参加しなければならないのが原則ですが、全財産を後妻と後妻の子で相続する内容の遺言書があれば他の相続人と遺産分割について協議する必要が無くなります。

 

ただし、遺言には相続人の遺留分を侵害することが出来ない、という法律上の制限があることには注意しなければなりません。

 遺留分とは、遺言の内容に関係なく一定の相続人(今回のケースでは前妻の子)に承継されるべき最低限の割合を指します。この最低限の割合が保証されておらず、すべての財産を後妻とその子に相続させる遺言が作られた場合、前妻の子は被相続人の死後に自分が受け取るべき相続分に相当する金銭を請求してくる可能性があります。

 

そのため、遺留分を巡って揉めることをも防ぐのであれば、弁護士にご相談のうえ、前妻の子の遺留分に配慮して最低限の財産を相続させる内容での遺言書作成を検討することをお勧めします。

 

生前贈与

 

また、生前の対策としては生前贈与をしておくことも考えられます。

 しかし、生前に相続人にした贈与は、「特別受益」と呼ばれる遺産の先取りに該当する可能性が高いです。そうすると、遺産分割の際は特別受益分を持ち戻して相続分を計算されることになり、前妻の子に財産を渡さないための手段としては意味をなさなくなるおそれがあります。

 遺言がある場合の遺留分を計算する際に考慮する生前贈与については、相続法の改正により死亡前10年間のものに限定されるようになりました(上述の相続分の計算においては、このような期間制限はありません)。そのため、早めに遺言作成と併せて行う生前贈与は、遺留分侵害額請求がなされるリスクの軽減策としては有用といえるでしょう。

 

被相続人の遺言がない場合

 

遺産分割協議は相続人全員が参加しなければ無効

 

遺産分割は相続人全員で行われる必要があり、一部の相続人だけで行った遺産分割は無効となります。そのため、相続人全員の同意が取れていることが確認できなければ、法務局はこれらの手続きに応じません。

 

したがって、前妻の子に隠して遺産分割協議を行ったとしても、「財産を後妻にすべて相続させる」という内容の公正証書遺言がない場合は、原則として後妻側で勝手に相続手続を完了させることはできません。

 

法定相続人の調査

 

前妻の子の連絡先が分からないということも往々にしてあります。こうしたときには、戸籍の附票を取得し、相続人の住所を調べる方法があります。

相続手続には相続人を確定できるだけの戸籍謄本一式を取得する必要があり、その中で前妻の子の本籍も判明することになります。本籍が分かればその本籍地の役所で戸籍の附票を取得することが可能です。戸籍の附票には前妻の子の現住所が記載されているため、被相続人の死亡を知らせる手紙を送り、連絡を取っていくことになります。

 

「前妻・後妻」間の相続トラブルは弁護士にお任せください

 

前妻の子どもと後妻がいる場合の相続では、両者の間でトラブルが生じやすい傾向にあります。

また、大きな揉め事が起こらなくとも、両者間に面識のないことがほとんどであることから、「相続について直接話し合いをするのは気が重い」「前妻の子に『もう父とは関わりたくない』という気持ちが強いのか、連絡を無視されてしまう」というご相談をお受けすることもあります。

 

そこで、あなたが被相続人の後妻、あるいは後妻のお子様であれば、弁護士にご相談・依頼されることをお勧めいたします。

弁護士にご依頼いただければ、前妻の子に配慮した生前対策や、遺言がない場合も相手方の反論や調停・訴訟での見通しを考慮した協議を進めることができます。また、話し合いが上手くいかず調停にもつれ込んでも、弁護士が代理人となって法的根拠に基づいた主張や証拠の収集をしていくことが可能です。

 また、相続トラブルを弁護士に依頼する大きなメリットとして、精神的な負担の軽減があります。協議・交渉段階から弁護士を代理人とすることで、弁護士が全ての連絡の窓口となることが出来ますので、普段付き合いのない相手に対しても言いたいことを主張しやすく、感情的に後引くことも少ないといえます。

さらに、面倒で時間のかかる相続人調査や相続財産調査も代行することが出来ますし、相続手続全般について、ご不明点があればお気軽にお尋ねいただけます。

 

執筆者情報

大阪和音法律事務所
大阪和音法律事務所
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