事業承継と種類株式の利用
1.円滑な事業承継の実現
円滑な事業承継を実現するためには、会社の経営権をできる限り承継者に集中させることが必要です。そのために一番いいのは、自社株のすべてを継承者に単独で取得させることです。
しかし、いろいろな事情からそれが難しい場合があります。そういった場合、種類株式を利用することによって、会社の経営権の集中を図ることも可能です。
2.種類株式とは
株式会社においては、株主の有する一定の権限について内容の異なる2種類以上の株式、すなわち種類株式を発行することができます。
ただし、種類株式の発行を行うためには、株主総会の特別決議によって定款を変更する必要があります。
3.種類株式をどのように利用するか?
会社経営権の承継者への集中を図るために種類株式を利用する場面としては、以下のような場面が挙げられます。
・現経営者が会社の全株式を保有している。 ・現経営者には妻と子A・B・Cがいるが、現経営者はこのうち長男Aを承継者にしたいと考えている。 ・会社の株式以外に現経営者の財産はほとんど存在しない。 ・長男Aは、承継者の持つ株式を買い取る資金を準備することができない。また、長男は、現経営者から株式を贈与されても贈与税を負担することができない。 |
この場合、現経営者が遺言を作成して、全株式を長男Aに相続させることも考えられますが、妻と子B・Cには「遺留分」が認められていますので、妻と子B・Cが遺留分減殺請求権を行使すると、妻と子B・Cの遺留分(妻=4分の1、B・C=それぞれ12分の1)を侵害する限度で遺言の効力が否定され、結局、長男Aは全体の12分の7(約58.3%)の株式しか取得できないということになります(長男Aが妻と子B・Cの遺留分に相当する現金を用意し、これを現経営者の妻とB・Cに支払うことによって全株式を取得するという方法もあり得ますが、長男Aが資金を準備できない場合は、それも難しいといえます)。
これでは、長男Aは株主総会の特別決議を必要とする会社の重要事項を自分一人で決定することができず、事業承継を行っても、安定的に経営を続けることが困難になることが予想されます。
こういった場面でも、種類株式を利用して、長男Aへの経営権の集中を実現できる場合があります。
① 議決権制限株式の利用
まず、議決権制限株式、すなわち、株主総会における議決権に制限を付けた種類株式を利用する場合があります。
具体的には、現経営者の保有する株式の一部を議決権制限株式とし、現経営者の遺言によって、妻やB・Cに対しては、それぞれの遺留分を侵害しない程度の株数の議決権制限株式を相続させ、他方でAには、議決権の制限のない普通株を相続させるのです。こうすれば、承継者であるAは、株主総会において単独で会社の重要事項を決定することができます。
ただ、この場合は、株主総会での議決に基本的に参加できない現経営者の妻やB・Cが不満を抱き、Aとの対立も生じかねませんので、妻やB・Cが相続する株式を議決権制限株式であるとともに、配当や残余財産の分配においてAに優先する配当優先株式、あるいは残余財産分配優先株式とするといった配慮を行うことも大事になってきます。
② 議決権制限株式の利用
また、拒否権付株式(いわゆる「黄金株」)を利用する場合もあります。
拒否権付株式とは、株主総会や取締役会の議決について、その機関の決議に加えて、種類株主総会の決議を必要とする株式のことです。
具体的には、現経営者の保有する株式の一部を取締役の選任についての拒否権付株式とし、現経営者の遺言によって、妻やB・Cに対しては普通株式を相続させ、他方でAに拒否権付株式を相続させるといった利用方法が考えられます。こうすれば、妻やB・CがA以外の者を取締役に選任しようとしても、Aが拒否権を行使することによって、A以外の者が会社の経営に影響を及ぼすことを防止することができます。
ただ、拒否権付株式は会社経営に与える影響力が極めて大きいため、安易に第三者の手にわたることがないような措置をとっておくことも必要になってきます。
具体的には、拒否権付株式を「株主総会や取締役会の同意がない限り譲渡が認められない」株式にする(譲渡制限株式)、あるいは、「拒否権付株式の相続が生じた場合に、会社が拒否権付株式を買い取ることができる」株式にする(取得条項付株式)といったことが考えられます。
4.まとめ
以上のように、種類株式を補完的に利用することによって、会社や現経営者・継承者の具体的な状況に即した方法で会社経営権の集中を図ることができ、しかも、継承者以外の親族の利益にも一定程度配慮することができます。
事業承継を計画される際は、弁護士に相談し、種類株式の利用等も含めて、総合的な観点からアドバイスを受けられることをお勧めします。
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