新型コロナウイルスの影響がある場合、相続放棄の熟慮期間延長の検討を

1 「熟慮期間」について

⑴ 過大な債務を相続して、財産を減少させたくない相続人が取るべき手続

ある人(被相続人)が亡くなった場合、その人の相続人は、被相続人が残した財産を相続します。この時、プラスの財産(資産)よりもマイナスの財産(債務)の方が多ければ、相続人は、相続後に自分固有の財産を持ち出して債務の返済を行う必要が生じ、結果として相続前より財産が減ってしまうことになります。このような結果になることを避けるために相続人が選択できる制度として「相続放棄」と「限定承認」があります。これらは、いずれも被相続人から過度な債務を引き継ぐ事態を防ぐための手続ですが、次の点で大きく異なります。

まず、相続放棄を行った場合、相続人は相続の当初から相続人にならなかったものとみなされ、被相続人の資産と債務は一切相続人に承継されません。この相続放棄は、相続人全員で行う必要はなく、個々の相続人が単独で行うことも可能です。

他方、限定承認は、相続人が被相続人の資産と債務を承継しつつ、承継した債務(と遺贈)の弁済については、相続によって承継したプラスの財産(資産)の範囲内で行うという留保をつけられる制度です。相続放棄とは異なり、相続財産の承継は行われるため、相続人が相続財産の中の一定の資産(相続人が居住している被相続人名義の不動産など)を残したいといった場合に利用されます。ただし、限定承認は相続人全員で行う必要がありますし、また、限定承認後に債権者への公告や配当弁済など、煩雑な清算手続を行う必要があるため、あまり多くは利用されていないのが実情です。

⑵ 熟慮期間の原則は「3カ月」以内

相続放棄や限定承認の手続は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」、すなわち、被相続人がなくなったことと自分が相続人となったことを知ったときから3カ月以内にしなければならないと定められています。この3ヶ月の期間を「熟慮期間」と呼びます。

この熟慮期間を過ぎると、相続人は相続放棄や限定承認を選択できなくなり、被相続人のプラスの財産(資産)とマイナスの財産(債務)の一切を引き継ぐしかなくなります。そして、引き継いだ債務の額が引き継いだ資産の額を超過している場合には、自分固有の財産を持ち出して債務の返済を行う必要が生じるのです。それ故、熟慮期間中に、相続放棄や限定承認を行うか否か、慎重かつ迅速に検討し、判断する必要があります。

2 新型コロナウイルスの影響ですぐに手続できないときは熟慮期間延長手続を

もっとも、3カ月という期間は非常に短く、被相続人の死亡後の様々な手続や仕事で忙しくしている間にその期間を過ぎてしまう危険があります。特に、新柄コロナウイルスのため仕事や家庭に大きな影響を受け、様々な対応を迫られた方の中には、3カ月以内に相続放棄の手続まで行うのは極めて困難という方もいらっしゃると思います。

そのような場合には、家庭裁判所に対して「熟慮期間延長の申立て」をすることにより、熟慮期間を3カ月より延長することも可能です。相続放棄・限定承認を行うかどうか判断に迷っているという方、相続放棄・限定承認の手続を行う時間的余裕がないという方は、とりあえずこの申立てを行ってください。

実際、法務省ウェブサイト上にも、「新型コロナウイルス感染症に関連して,相続放棄等の熟慮期間の延長を希望する方へ」と題する記事が掲載され、新型コロナウイルス感染症の影響によってスムーズに相続の承認又は放棄の手続をすることができない場合には,熟慮期間の延長を家庭裁判所に申立てることができることを説明するとともに、熟慮期間内に相続放棄または限定承認をしなかったときは、被相続人の財産と債務を全て引き継ぐことになることを指摘し、注意喚起を行っています。

 

3 熟慮期間延長の手続を行うには

熟慮期間を延長するためには、3か月の熟慮期間が終わる前に、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に対して、熟慮期間延長の申立てを行う必要があります。

熟慮期間延長の申立てに際しては、裁判所所定の書式に必要事項を記入して申立書を作成し、家庭裁判所に提出する必要があります。その際、手続費用として、相続人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手を納める必要があります。手続や費用の詳細は裁判所のホームページに掲載されていますので、まずはそれを確認し、それでも不明な点、不安な点がある場合は、弁護士までご相談ください。

 

4 新型コロナウイルスが相続放棄の判断に与える影響について

今回の新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの会社が業績不振に陥り、株式や投資信託、不動産といった財産の価額が大きく下落することが考えられます。実際には、日経平均株価は、3月に急落して以降、少しずつ持ち直してきていますが、世界的な感染拡大がおさまらない中、今後株価や投資信託の基準価格がどのように変動するかは全く未知数です。

このような状況は、被相続人の財産に株式等の金融商品が多く含まれている場合に、相続放棄の判断に影響する可能性があります。

たとえば、被相続人の株式と債務を相続し、相続開始時点では株式が3,000万円、債務2,000万円の価値があったとします。しかし、新型コロナウイルス感染症にともない株価が下落し、株式の価値が1,000万円になったとすれば、その時点での価値だけをみれば、相続放棄や限定承認を選んだほうが得ということになります。もちろん、株価はいずれ上昇する可能性もあり、また配当を得られる可能性もありますから、相続放棄や限定承認をせず、そのまま被相続人の株式と債務を相続した方が得だったという結果になることも考えられます

このように、現在は、相続放棄や限定承認をした方がよいか否か、適切に判断することが非常に難しい時期にあると言えます。よくわからない間に決断を迫られ、後で後悔するのを避けたいと思う場合は、とりあえず熟慮期間の延長申立てをして、新型コロナウイルス感染症の影響を見極めてから、相続放棄や限定承認について判断するのが合理的といえます。

「文章作成:大阪和音法律事務所 所属弁護士」

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大阪和音法律事務所
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