遺産分割後に遺言が見つかった場合の対応

被相続人が亡くなった後、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割が完了した後に、被相続人が遺言を残していたことが判明した場合、相続人はどのように対応すればよく、いったん成立した遺産分割はどうなるのでしょうか。

1 前提

まず前提として、遺言は、原則として被相続人の死亡によってその効力が発生します。
したがって、遺言が作成されていた場合、相続人がそれを知らなくても、法的には、被相続人死亡の時点で遺言の効力が発生し、遺言の内容に従った権利関係の変動が生じます。

もっとも、相続人及び受遺者の全員が遺言書の内容を確認した上で、(受遺者がいる場合は受遺者が遺贈を放棄して)遺言書の内容と異なる内容で合意した場合は、遺言と異なる内容の遺産分割協議も有効であり、遺言ではなく遺産分割協議の内容に従って遺産分割が行われます(ただし、遺言執行者がおり、遺言と異なる内容の遺産分割に反対している場合は除きます)。

2 遺言があることを知らずに遺産分割がされた場合

では、相続人が遺言の存在を知らずに遺産分割協議を行い、その後遺言が発見されたという場合、既に行われた遺産分割は法的にどうなるのでしょうか。

以下の事例に沿って説明します。

<モデル事例>
・被相続人Aは、公正証書遺言を作成して死亡した。
・Aの相続人は、子XYZの3人。
・XYZはいずれも公正証書遺言の存在を全く知らないまま、全員で遺産分割協議を実施し、遺産である甲不動産・乙不動産をすべて売却し、預金も併せて現金で3分の1ずつ分けるという内容の合意が成立した。
・遺産分割協議成立後、公正証書遺言の存在が判明した。

※遺言を発見したのに自分に不利な内容だから隠していたという場合、相続欠格事由(民法891条5号)に該当し、相続資格を失ってしまいます(したがって遺産分割協議も無効になります)ので、その点についても注意が必要です。

ケース⑴-単純包括遺贈の場合

判明したAの遺言が「自分の財産の全部をXに譲る」という内容だった場合、遺産分割はどうなるでしょうか。
この場合、相続人が遺言の存在を認識していない以上、当然に遺産分割協議が優先するということにはなりません。Aが死亡した時点で遺贈の効力が生じ、遺産分割の対象となる遺産がそもそも存在しないことになりますので、遺産分割は無効です(なお、遺贈とは、遺言による財産の無償処分を言います。)。

なお、「自分の財産の全部を子Xに包括して相続させる」旨の遺言の場合も同様と考えられます。
具体的には、ケース⑴では、Xは遺言の存在を協議・調停・裁判等でY・Zに対して主張・立証することで、遺産分割協議を無効として争うことができます。その上で、あとはY・Zが遺留分減殺請求を行使するかどうかを個別に判断することになります。

ケース⑵-非相続人に対する割合的包括遺贈の場合

判明したAの遺言が「自分の財産のうち、3分の2を友人Bに譲る」という内容だった場合、遺産分割はどうなるでしょうか。
この場合も、Aが死亡した時点で遺贈の効力が生じています。それにもかかわらず、遺産分割は、当事者の一部(B)を除外して行われています。したがって、遺産分割協議は無効です。

具体的には、Bは、遺言の存在を協議・調停・裁判等でXYZに対して主張・立証することで、遺産分割協議を無効として争うことができます。そのうえで、受遺者(友人B)も含めてB・X・Y・Zで再度遺産分割協議を行う必要があります。

ケース⑶-相続人に対する割合的包括遺贈の場合

ア 判明したAの遺言が「自分の財産のうち、Xに5分3、Yに5分の1、Zに5分の1を譲る」との内容だった場合、遺産分割はどうなるでしょうか。

この場合には、遺言を前提としてもいずれにしても遺産分割協議は必要ですので、遺言の割合と異なる遺産分割協議自体は当然無効とは言えず、一応有効といえます。

もっとも、仮に、遺贈を受けた相続人が、当初から遺言の内容を知っていれば、実際に行われた遺産分割協議の内容に同意することはなかったであろうと言える場合は、遺産分割協議による合意は錯誤により無効となる(改正民法では取り消される)可能性があります(民法95条)。

なお、相続分の指定の遺言(例えば「自分の財産については、Xに5分の3、Yに5分の1、Zに5分の1の割合で相続させる」という遺言)がある場合も同様と考えられます。

※なお、令和2年4月施行の改正民法95条では、錯誤は無効事由ではなく、取消事由とされています。

イ では、遺産分割協議が「錯誤」により無効(改正民法では取り消される)のは、どのような場合でしょうか。

この点について、民法第95条では、「要素の錯誤」が認められる場合(改正民法では「錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」)と規定されています。具体的には、遺産分割に参加した相続人(上記のケースではX)が自己に有利な遺言書の存在を全く知らず、もし遺言の内容を知っていれば遺産分割の合意をしなかったであろうといえるときには、遺産分割に要素の錯誤がある(改正民法では錯誤が重要なものであるとき)として、無効の主張が認められる可能性が高いと言えるでしょう。

他方、遺産分割の内容が遺言書の内容と大差ないなど、遺言の内容を知っていたとしても遺産分割の成否に影響がなかったと考えられる場合には、錯誤の主張は認められない可能性が高いでしょう。

もっとも、遺産分割の無効を主張する相続人が遺言書の存在を容易に知り得たはずであるのに、重大な過失によってその存在を見落としていたというような場合には、民法95条但書により、錯誤の主張は認められません。

ケース⑷-特定遺贈遺言(受遺者に与えられる目的物や財産的利益を特定して受遺者に与える旨の遺言)や特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言の場合

判明したAの遺言が、「自分の財産のうち、甲不動産をXに譲る」、あるいは「自分の財産のうち、甲不動産をXに相続させる」という内容の場合、遺産分割はどうなるのでしょうか。

この場合、Aが死亡した時点で遺贈が効力を生じ、遺贈等の対象である甲不動産は遺産分割の対象ではなくなります。したがって、甲不動産に関する遺産分割協議での合意は無効となります。また、甲不動産が遺産のほぼ全てであるなど、甲不動産の重要度によっては、当初の分割協議全体が無効となる場合もあるでしょう。

具体的には、Xは遺言の存在を協議・調停・裁判等でY・Zに対して主張・立証することで、甲不動産に関する遺産分割協議を無効として争うことができます(なお、甲不動産の重要度によっては遺産分割協議全体の無効を主張したり、甲不動産に関する遺言を知っていればそのような遺産分割協議はしなかったとして、甲不動産以外に関する遺産分割協議の錯誤無効(改正民法では錯誤による取消し)を主張することも考えられます)。そのうえで、遺言の対象とされた甲不動産を除いた遺産について、再度遺産分割協議を行うことになります。

ケース⑸-遺産分割方法の指定の遺言が判明した場合

判明したAの遺言が「自分の財産のうち、甲土地を売却のうえ、売却代金をXYZが相続分に応じて取得せよ」という内容だった場合、遺産分割協議はどうなるでしょうか。

この場合には、遺言を前提としてもいずれにしても遺産分割協議は必要であり、遺産分割協議自体は一応有効と考えることができます。ただし、内容によっては、当初から遺言の内容を知っていれば実際に行われた遺産分割協議の内容に全員が同意することはなかったであろうと言える場合は、遺産分割協議が錯誤(民法95条)により無効とされる(改正民法では取消される)可能性はあります(具体的にはケース⑶で述べたのと同様です)。

3 まとめ

自分自身が遺産分割協議成立後に新たに遺言書を発見したり、遺産分割協議成立後に発見された遺言書を理由に、一部の相続人から遺産分割の無効を主張されるというケースは、実務上時折みられます。
こういうケースでは、上で述べたように、非常に複雑な法律問題が発生します。

このような場合は、まずは弁護士に相談し、対応を検討されることをお勧めします。

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