他の相続人と連絡を取りたくない、または連絡が取れない方へ

相続人の中に連絡を取りたくない人がいる場合や、そもそも連絡が取れない人がいる場合、どのように相続手続を進めていけばよいのでしょうか。

そこで、問題となるケースごとに、遺産相続の流れや必要な手続について弁護士が解説します。

1 相続人と連絡が取れないとき、相続手続をせずに放置したらどうなるか

相続人の中に連絡が取れない人、あるいは取りたくない人がいると、遺産分割協議などの相続手続を進めるのが面倒になります。できれば、このまま放置して先延ばしにしておきたいという思いになることもあるでしょう。

しかし、連絡が取れないからといって遺産分割をせずに放置するのは問題です。

具体的には、どのような問題が発生するのでしょうか。

⑴ 不動産がある場合、売却、賃貸、増改築、解体などの活用が一切できない

相続財産の中に不動産がある場合、きちんと遺産分割協議をしないと不動産を活用できません。なぜなら、相続が発生し、遺産分割が未了のまま放置されている状態というのは、不動産は法定相続人の「共有」状態となっているからです。

共有状態で不動産を賃貸、増改築、解体、建て替え、売却などを行うには、すべての共有者の合意が必要です。そのため、事実上、売却も賃貸も解体もできず、不動産を一切活用できません。

それでいて、毎年固定資産税だけはかかり続けますから、誰にとってもメリットはないということになります。

⑵ 相続財産が無断利用・無断譲渡される

きちんと遺産分割をせずに放置していると、相続財産を第三者に勝手に利用し始めたり、建物内に勝手に入り込まれて犯罪などのために使われてしまうリスクがあります。

また、共有している一部の共同相続人が、自分の法定相続分に相当する部分のみを第三者に売却するケースもあります。そうなると、縁もゆかりもない得体のしれない第三者と同じ不動産を共有することになってしまい、後々問題が発生するという事態があり得ます。

さらに、共有不動産ということで管理も怠りがちとなり、空き家が倒壊したり、樹木が伸びたりして近隣の迷惑になってしまう、という事態もあり得ます。

 

⑶ 預貯金の払い戻しも困難

相続財産の中に預貯金が含まれている場合には、遺産分割協議書を作成しないと全額の払い戻しができません。

相続法の改正により、法定相続人であれば、一部の払い戻しができるようになりました(具体的には、相続開始時の被相続人の預貯金額×1/3×払戻しする法定相続人の法定相続分。ただし、一つの金融機関から引き出せるのは最大150万円)。

しかし、全部は引き出せないので、中途半端な状態で預貯金が放置されてしまう、ということになります。

 

(4)相続税申告における不利益

遺産分割協議を行わないと相続税の申告の場面でも不利益を受けます。具体的には、遺産分割協議が未了のままだと、「相続税の配偶者控除」や「小規模宅地の特例」などの適用を受けられません。

  遺産分割協議がまとまっていなくても、遺産分割協議が3年以内に成立する見込みがあれば、その旨報告して後に控除や特例を適用してもらうことが可能です。しかし、遺産分割協議を始めることもせず、放置してしまうと、それも不可能ということになりますので、高額な相続税を払ったままの状態になります。これは、誰の利益にもなりません。

相続税が多額になると相続人全員が不利益を受けてしまいます。

相続税が発生するケースでは必ず遺産分割協議を進めておいた方が良いでしょう。

2 連絡が取れない相続人を除外して進めることができるか

このように、遺産分割協議などの相続手続をせずに放置することには様々なリスクがあります。

しかし、いざ相続手続を進めようとする場合、連絡が取れない相続人がいたり、仲が悪いなどの事情で連絡を取りたくない相続人をどう扱えばよいのでしょうか。

連絡が取れない(取りたくない)相続人を、除外して相続手続を進めることはできるのでしょうか。

 

⑴ 除外して進められる場合

まず、音信不通の相続人がいるような場合でも、遺言書によってすべての遺産相続方法が指定されている場合は、遺言に基づいて相続財産を取得した人は、連絡が取れない相続人の意向に関わりなく相続手続を進められます。

これは、そもそも遺産分割協議が不要な場合なので、ある意味当然です。

⑵ 除外して進めることができない場合

問題は、遺言書がない場合、あるいは遺産分割協議が必要な形での遺言(例えば遺産分割割合だけが指定されている遺言など)しかない場合です。

この場合、連絡を取りたくない、あるいは連絡が取れない相続人をそもそも除外して相続手続を進めることができれば楽に思えます。

しかし、これは、お勧めできません。

なぜなら、法定相続人が全員参加せずに行われた遺産分割協議は無効だからです。

無効な遺産分割協議にもとづいて作成された遺産分割協議書も無効です。

遺産分割協議が無効だと、事実上、相続手続を進めることができません。

たとえば、不動産、車、株式などの相続財産の名義変更をしようとしても、一部の相続人を除外した遺産分割協議書では法務局などが受け付けてくれませんし、預貯金の払い戻しをしようとしても銀行が受け付けてくれません。

そのため、たとえ連絡が取れない相続人がいる場合でも、相続手続をするためには、法定相続人が全員そろって遺産分割協議をする必要があるのです。連絡が取れない相続人を除外して、やり取り可能な相続人だけで遺産分割協議を進めることは法律的には認められません。

ただ、連絡が取れない場合といっても、さまざまな場合があり、それぞれについて進めていくべき手続が異なってきます。

以下では、ケースごとに見ていきましょう。

3 生死や行方はわかっているが無視されている場合の相続手続の進め方

まず、生死や行先はわかっているが無視されている場合です。

⑴ 連絡を無視される典型的なケース

連絡を無視する相続人がいる場合、さまざまな事情が考えられますが、典型的には次のようなケースです。

①もともと疎遠で一度も会ったことのない場合

②親族同士がもともと不仲の場合

このような場合は、連絡しても「関わりたくない」ということで無視される可能性も大きいでしょう。

⑵ 無視した場合の不利益を説明してあげる

連絡を無視する相続人がいる場合、どのように相続手続を進めていけばよいでしょうか。

   この場合、無視している人は、無視したらどうなるかを正確に理解して無視していることは少なく、実際には、単に無視することの不利益を理解できていないだけのことが多いです。

そこで、まずは、「無視しているとどのような不利益や問題があるのか」を正確に伝えて、理解させることが大事です。

たとえば、

・「このままでは家庭裁判所で遺産分割調停をせざるを得なくなりますが、そうなればお互い時間も費用も労力もかかってしまいます」

・「いつかは相続手続をしなければならないのだから、自分たちが年を取って対応できなくなる前に早めに解決しましょう。手続が遅れると次世代に問題が引き継がれてしまい、より複雑な問題を子供たちに残すことになりかねません」

などの説明を行い、何とか話し合いに応じてもらえるよう説得を試みてみましょう。

このようにして無視のデメリットについて理解を得ることができれば、相手も応じてくれる可能性はあるでしょう。

ただ、無視した場合の法的な帰結を一般の方が説明するのは難しいですし、仲が悪かったり疎遠になっている相手に直接言いづらいことも多いと思います。さらに、説明を受ける人の側も、頭ではわかっているけれども仲の悪いきょうだいから直接言われても素直に言われた通りにする気にならない、という心理もあり得ます。

そのような場合は、弁護士に依頼をして、弁護士から説明してもらうことが有効です。

 ⑶ 連絡を無視され続けた場合の相続手続の進め方

説得を試みても相手がどうしても応じてくれない場合や、すでに深い対立関係になっていて説得も難しい場合には、話し合いでは難しいということになります。

この場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立て、裁判所の手続を利用して話し合いを進めるしかありません。

調停を申し立てると、家庭裁判所から相手の住所地に呼出状が送られます。

あとは、裁判所に出頭して、調停委員を通じて話をしていくことになります(ただし、遺産分割調停では、法的問題ごとに一つ一つ解決を図っていくという「段階的進行方式」というスタイルが取られており、それぞれの法律問題の段階に応じた主張や立証を行う必要があります)。

そして、もし調停でも話し合いが成立しない場合には、「遺産分割審判」に移行し、裁判所が遺産分割の方法を決定してくれます。

このように、遺産分割調停・審判を利用すれば、無視されていても遺産分割について結論を得ることができることが多いです

4 生死や行方が分からない場合の相続手続の進め方

しかし、音信不通、生死不明、居場所不明の相続人がいる場合には、事情が異なってきます。

この場合、どのようにして相続手続を進めたら良いのでしょうか。

その流れは以下の通りです。

⑴ 住所の調査

まずは、相続人の住所地を調査することが重要です。

通常、人は住民票のある場所に住んでいることが多いので、現在住民票が置かれている場所がわかれば、連絡を取れる可能性があります。

これは、その人の「戸籍の附票」を確認すればわかります。

「戸籍の附票」とは、新しく戸籍を作った(本籍を定めた)時以降の住民票の移り変わりを記録したものです。戸籍簿とセットで本籍地の市区町村で管理されています。

   そこで、その相続人の今の本籍地がわかるのであれば、本籍地の役所に申請し、その人の戸籍附票を取得すると、住民票上の住所の変遷が分かります。

ただし、「戸籍の附票」は、原則として他人には取得できません(弁護士であれば取得できます)。具体的には、その人が結婚などにより独立の戸籍を作っている場合などは、「戸籍の附票」をとろうと思っても役所は発行してくれません。

逆に、その人が結婚しておらず、まだ被相続人を筆頭者とする戸籍の中に入っている場合や、兄弟などで自分と同じ戸籍に入っている人の場合には、被相続人や自分の戸籍の附票をまとめて取得すれば、相手の住所地を確認できます。

このようにして、相手の住所がわかったら、その住所あてに手紙を送ることになります。返答があれば、そのまま相続手続を進めていくことができるでしょう。

⑵ 不在者財産管理人の選任を申し立てる

ア 戸籍附票を取得するなどして住所地が特定できたとしても、その人はその場所に居住していないケースもあります。

このように、調査しても行方不明の相続人がいる場合、どのような方法を取ればよいのでしょうか。

この場合は、「不在者財産管理人」の選任申立てを行いましょう。

    「不在者財産管理人」とは、財産管理人を置かずに行方不明になっている人がいる場合に、本人の代わりに財産管理をする人です。共同相続人であれば、利害関係人として、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申し立てができます。もちろん、弁護士が代理人となって申立てを行ことも可能です。

  イ 不在者財産管理人の選任申立ては、不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所に対して行います。費用は収入印紙800円分と予納郵便切手です。

なお、不在者財産管理人になれるのは、相続に利害関係がない被相続人の親族や、弁護士・司法書士などの専門家です。親族の中に適切な候補者がいない場合は、家庭裁判所が専門家の中から適当な人を選任します。共同相続人が自ら不在者財産管理人になることはできません。

不在者財産管理人の選任申立てに必要となる標準的な書類は以下の通りです(詳細は裁判所のHPに掲載されています)。

・申立書

・不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)

・不在者の戸籍附票

・財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票

・不在の事実を証する資料

・不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書,預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し,残高証明書等)等)

・利害関係人からの申立ての場合,利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書),賃貸借契約書写し,金銭消費貸借契約書写し等)

※ 同じ書類は1通で足ります。

 ウ 不在者財産管理人が選任されれば、選任された不在者財産管理人を含めた全員の共同相続人で遺産分割協議を行っていくことになります。

 ⑶ 失踪宣言の申立てを行う

ア 連絡が取れない相続人について、生死不明の状況が7年以上経過している場合は、「失踪宣告」ができます。

「失踪宣告」とは、長期にわたって行方不明になっている人について、法律上「死亡した」と同様の扱いにする手続です。

失踪宣告には、「普通失踪」と「危難失踪」の2種類があります。

通常のケースでは「普通失踪」を申し立てます。この場合、7年間生死不明であれば申立てができます。

   (なお、「危難失踪」は、戦地に臨んだ場合、沈没した船舶中に居た場合などの危難に遭遇したなど特殊なケースに限られ、危機が去ってから1年で失踪宣告の申し立てが可能です)

  イ 失踪宣告の申立ては、不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所に対して行います。

    申立てに必要な書類は、以下の通りです(詳細は、裁判所にも掲載されています)。

・不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)

・不在者の戸籍附票

・失踪を証する資料

・申立人の利害関係を証する資料(親族関係であれば戸籍謄本(全部事項証明書))

※ 同じ書類は1通で足ります。

  ウ 失踪宣告が行われると、その相続人は法的に「死亡した」という扱いとなります。

したがって、遺産分割協議に参加させる必要がなくなりますので、生死不明の共同相続人を除外した形で遺産分割協議をすることができます。

もっとも、もし失踪宣告を受けた者に相続人がいる場合には、その相続人を参加させる必要はありますので、注意が必要です。

5 いずれの場合でも弁護士を代理人に立てるのが有効

⑴ 窓口としての弁護士の役割

以上のように、他の相続人から無視されるような場合、その相続人を除外して遺産分割などの相続手続を進めることは原則としてできませんので、連絡を取ることは必須となります。

弁護士を代理人に立てていれば、そういったやりとりをすべて弁護士が窓口となって行うことができますので、ご自身が直接やり取りをする必要はありません。

⑵ 相手ヘの連絡・説明・協議・調停への対応

弁護士を代理人に立てれば、他の相続人に対し、無視していることの不利益を客観的・専門的な立場から説明できますし、ご自身から伝えるよりも言うことも聞いてもらいやすくなります。

また、遺産分割調停を申し立てる場合は、段階的進行方式に従って、段階を追って法律問題を解決していかなければなりません。専門的知識や決裂した場合の法的な帰結に関する法律知識は不可欠となりますので、早めに弁護士を代理人に立てられることをお勧めします。

⑶ 失踪宣告など付随する法律手続を含めた対応

逆に、相続人が住所不明・生死不明の相続人がいる場合は、住民票の調査や不在者財産管理人選任申立て、失踪宣告といった法的手続を取っていく必要があり、さらにその先に遺産分割協議・遺産分割調停が待ち構えているということになります。

これらについて、ご自身ですべてを行っていくのは時間も労力もかかり、結果として手続が非常に難航することが予想されます。早めに弁護士を代理人に立てることで、これら一連の法的手続をスムーズに進めていくことが可能となります。

いずれの場合でも、早めに弁護士に相談・依頼をすることをお勧めいたします。

6 まとめ

相続人の中に連絡が取れない人がいると、どうしても相続手続が面倒になりますが、連絡を取れる相続人だけで行う遺産分割協議は無効です。

放置しても問題が先延ばしにされるだけで、次世代に問題を引き継がせてしまうことにもなりかねません。連絡が取れない相続人がいるときでも、上で見たように、ケースごとに適切な法的手続を取っていく必要があるのです。

弁護士が依頼者に代わってその相続人と交渉したり、家庭裁判所に遺産分割調停・審判を申し立てたり、「不在者財産管理人」「失踪宣告」の申立てを行うことも可能です。

大阪和音法律事務所では、相続に関する問題を多数扱っています。

連絡が取れない、あるいは連絡を取りたくない相続人がいて、相続手続で悩まれている方は、大阪和音法律事務所までご相談ください。

(執筆者:弁護士 田保雄三)

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